RHOキナーゼ阻害薬ネタルスジルは犬の緑内障に効果があるか?
健常犬およびADAMTS10開放隅角緑内障犬でのネタルスジル点眼薬(Rhopressa™)の効果と安全性
Safety and efficacy of topically administered netarsudil (Rhopressa™) in normal and glaucomatous dogs with ADAMTS10-open-angle glaucoma (ADAMTS10-OAG)
Leary KA, Lin K-T, Steibel JP, Harman CD, Komáromy AM. Vet Ophthalmol. December 2019. doi:10.1111/vop.12734. PMID: 31872953
原文(PubMed)はこちら
目的:
ADAMTS10開放隅角緑内障(ADAMTS10-OAG)を有する緑内障犬および正常犬における局所投与0.02%ネタルスジル点眼薬(Rhopressa™;Aerie Pharmaceutical)の安全性および有効性を評価すること。
研究動物:
ADAMTS10-OAGの5頭の緑内障および5頭の正常ビーグル犬。
方法:
各イヌにおいて、左眼または右眼を無作為に選択してネタルスジル治療を行った。 反対側の眼を平衡塩類溶液(BSS)で治療した。 1週間のベースライン期間後、犬に、2週目に1日1回(24時間ごと)、3週目に1日2回(12時間ごと)投与し、4週目を休薬期間とした。 有効性は日中の眼圧(IOP)と瞳孔直径で測定した。 安全性は、ルーチンの眼科検査、隅角検査およびパキメトリーによって評価した。 定量的な測定結果の最小二乗平均の差を線形ガウスモデルによりネタルスジルとBSSコントロール治療眼の間で比較した。
結果:
ベースラインIOPは正常犬で18.5±0.5mmHg(平均±SEM),OAG犬で27.8±1.0mmHgであった。 平均IOPは、コントロール群に対してネタルスジル群で低かったが、全体的な差は、治療頻度にかかわらず、有意でも臨床的に意義のあるものでもなかった(24時間ごと投与、正常:シャムコントロール 16.4±1.1mmHg vs 治療 15.6±1.0mmHg; 24時間ごと投与、OAG:シャム 25.8±2.3mmHg vs 治療 25.7±2.4mmHg; 12時間ごと投与正常:シャム 15.4±0.8mmHg vs 治療 14.4±0.8mmHg; 12時間ごと投与OAG:シャム 26.3±1.7mmHg vs 治療 25.4±1.8mmHg)。ネタルスジル投与は良好な許容性を示したが、中等度から重度の有意な球結膜充血(P < 0.001)を生じた。
結論:
ネタルスジルの1日1回または2回の投与は正常およびOAGに罹患したイヌにおいてわずかで臨床的意義のない眼圧の低下をもたらした。 球結膜充血を除き、本剤は寛容性が良好であった。
RHOキナーゼ阻害薬は、人の開放隅角緑内障に対して用いられ始めた新しいタイプの抗緑内障薬です。この研究では、RHOキナーゼ阻害薬であるネタルスジル点眼薬を健常犬とADAMTS10遺伝子変異をもつ開放隅角緑内障ビーグル犬に投与し、効果を調べています。犬に対して、RHOキナーゼ阻害薬の点眼薬の効果を調べた最初の論文研究報告です。
最も重要なプライマリーアウトカムは眼圧ですが、コントロールと比べてネタルスジル点眼薬で臨床的に有効な眼圧降下作用は認められませんでした。ADAMTS10遺伝子に起因する開放隅角緑内障は、犬で臨床的に多く見られる原発緑内障である閉塞隅角緑内障と発症機序は大きく異なると考えられています。しかし、臨床的に有効と判断される程度の眼圧降下作用が、正常犬でも緑内障犬でも認められなかった事から、現在のところ、 0.02%ネタルスジル点眼薬を含むRHOキナーゼ阻害薬は、犬の緑内障には現段階では効果があまりないと判断できるでしょう。
研究デザイン:無作為化コントロール試験